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夜汽車の食堂

中原中也

雪の野原の中に、一条ひとすぢのレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。レールの片側には、真ッ黒に火で焦がされた、太い木杭が立ち並んでゐて、レールを慰めてゐるやうなのでありました。

そのレールの上を、今、円筒形の、途方もなく大きい列車が、まるで星に向つて放たれたロケットのやうに、遮二無二走つて行くのでした。

その列車の食堂は明るくて、その天井は白いロイドで貼つてあり、飴色の電燈は、カツカとあかつて燈つてゐました。其処に僕はゐて、おさかなフライにレモンの汁をしたたか掛けて、これから食べようとしてゐたのです。僕が背ろを振り向くと、会計台の所には、白い上衣のボーイが一人立つてゐて、列車の動揺に馴れ切つたあしつきで、でもシヤチコバつて立つてゐるのでありました。僕のほかにはお客は誰も居なく、どうしたことか、女給も一人も見えないのでした。

僕が美味おいしい美味おいしいと、そのお魚フライを食べてゐると、やがてツカツカと、白い大きい※[#濁点付き片仮名ヱ、1-7-84]ーレをかぶり、青い洋服に薄い焦茶のストッキングをはいた、大きなアメリカの小母さんが這入つて来ました。そして僕の耳を引つ張つて、僕の頭を揺すぶりながら、「そんなにレモンをかけて食べる人ありますか!」と云ふのでした。

僕は怖くなつて、とてもそのアメリカの小母さんの顔が見てはゐられなくなつて、窓の方に眼を向けると、雪の原には月が一面に青々と光つて、なんだか白熊たちは雪達磨ゆきだるまをこしらへてゐるのでした。

汽車は相変らずゴーツといつて、レモンは僕の目にしみて、僕はお母さんやお父さんを離れて、かうして一人でお星の方へ旅をすることが、なんだか途方もなくつまらなくなるのでありました。

汽車はゴーツといつて、青い青い雪の原を、何時までも停まらず走り続けました。

僕は段々睡くなつて、そのうち卓子の上に伏せつて眠りましたが、するとお庭の椽側のそばの、陽を浴びた石の上で、尾を立てたり下ろしたりしてゐる、プチ公(犬の名)の夢を見るのでした。女中ねーやはこれから郵便局に、手紙は出しに行つて来ると云ふのでした。

夜汽車の食堂

中原中也

雪の野原の中に、一条ひとすぢのレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。レールの片側には、真ッ黒に火で焦がされた、太い木杭が立ち並んでゐて、レールを慰めてゐるやうなのでありました。

そのレールの上を、今、円筒形の、途方もなく大きい列車が、まるで星に向つて放たれたロケットのやうに、遮二無二走つて行くのでした。

その列車の食堂は明るくて、その天井は白いロイドで貼つてあり、飴色の電燈は、カツカとあかつて燈つてゐました。其処に僕はゐて、おさかなフライにレモンの汁をしたたか掛けて、これから食べようとしてゐたのです。僕が背ろを振り向くと、会計台の所には、白い上衣のボーイが一人立つてゐて、列車の動揺に馴れ切つたあしつきで、でもシヤチコバつて立つてゐるのでありました。僕のほかにはお客は誰も居なく、どうしたことか、女給も一人も見えないのでした。

僕が美味おいしい美味おいしいと、そのお魚フライを食べてゐると、やがてツカツカと、白い大きい※[#濁点付き片仮名ヱ、1-7-84]ーレをかぶり、青い洋服に薄い焦茶のストッキングをはいた、大きなアメリカの小母さんが這入つて来ました。そして僕の耳を引つ張つて、僕の頭を揺すぶりながら、「そんなにレモンをかけて食べる人ありますか!」と云ふのでした。

僕は怖くなつて、とてもそのアメリカの小母さんの顔が見てはゐられなくなつて、窓の方に眼を向けると、雪の原には月が一面に青々と光つて、なんだか白熊たちは雪達磨ゆきだるまをこしらへてゐるのでした。

汽車は相変らずゴーツといつて、レモンは僕の目にしみて、僕はお母さんやお父さんを離れて、かうして一人でお星の方へ旅をすることが、なんだか途方もなくつまらなくなるのでありました。

汽車はゴーツといつて、青い青い雪の原を、何時までも停まらず走り続けました。

僕は段々睡くなつて、そのうち卓子の上に伏せつて眠りましたが、するとお庭の椽側のそばの、陽を浴びた石の上で、尾を立てたり下ろしたりしてゐる、プチ公(犬の名)の夢を見るのでした。女中ねーやはこれから郵便局に、手紙は出しに行つて来ると云ふのでした。

TREASURE ISLAND

by Robert Louis Stevenson

QUIRE TRELAWNEY, Dr. Livesey, and the rest of these gentlemen having asked me to write down the whole particulars about Treasure Island, from the beginning to the end, keeping nothing back but the bearings of the island, and that only because there is still treasure not yet lifted, I take up my pen in the year of grace 17__ and go back to the time when my father kept the Admiral Benbow inn and the brown old seaman with the sabre cut first took up his lodging under our roof.

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